「処遇改善加算」とは介護職の賃金をあげるためのお金を事業所に支給する制度で、「処遇改善手当」と呼ばれることもあります。
介護職のためにキャリアアップの道すじを整えたり、職場環境の改善を行った事業所に対して支給されます。
高齢化が進む日本では介護職不足が深刻で、2025年度には約38万人の介護職が不足する見込みです。
処遇改善加算は介護職不足の解決に向けて、介護職を目指す人を増やしたり、今働いている介護職の定着率をあげるために作られた制度です。
処遇改善加算は介護職の給与・教育両面を改善する優れた制度ですが、仕組みが複雑で分かりづらい制度でもあります。
「どのくらいの金額を受け取れるの?」
「パートや無資格でも支給の対象?」
「処遇改善加算を取得しているはずなのに手取りが上がらないのはなぜ?」
この記事を読めば、そんな疑問がすべて解決します!
処遇改善加算とは?取得率や支給の流れは?
処遇改善加算とは、介護職員が目標を持って働けるようキャリアアップの仕組みをつくり、働きやすいよう職場環境の改善を行った事業所に対して、介護職員の賃金を上げるための手当として支給する制度です。
改善加算の目的は、介護職員の賃金をあげることです。
賃金改善によって介護職の定着率を高め、さらに介護職を目指す人を増やす狙いがあります。
ここでは「処遇改善加算の取得率」や「実際に職員の給料に反映するまでの流れ」など、処遇改善加算の基本的な情報を解説します。
また2019年10月から新たに加わる「介護職員等特定処遇改善加算」の最新情報も紹介します!
処遇改善加算の取得率
厚生労働省の平成28年度介護事業者処遇状況等調査によると、介護事業所全体の90.0%が処遇改善加算を取得していて、取得率は高いといえます。
しかし、処遇改善加算を取得していない事業所が10.0%あるのも事実です。
これらの事業所が加算の届け出をしない理由でもっとも多いのが、「事務作業が煩雑」という理由です。
処遇改善加算を受け取るには、以下のような事務作業が必要です。
- 処遇改善計画書の作成
- 処遇改善実績報告書の作成
- 職員への処遇改善手当支給額の算定
小規模な事業所では、これらの事務作業に割く労働力と時間を確保することが難しく、加算の届け出が出来ていない現状です。
続いて、処遇改善加算が実際に給料に反映されるまでのより詳しい流れを紹介します。
処遇改善加算が給料に反映されるまでの流れ
処遇改善加算を受給し、介護職員の給料に反映されるまでの流れは以下の通りです。
- 事業所が介護職員のキャリアアップの仕組みや職場環境の改善の計画を立てる
- 計画の実施状況を、都道府県や市町村などの自治体に報告する
- その報告をもとに、自治体から「給料の上乗せ費用」が介護報酬に追加して支給される
- 支給されたお金を、事業所が介護職員へ給料として支給する
- 介護職員の給料が上がる
処遇改善加算取得後も、油断は禁物です。
自治体に届け出ている内容に変更があった場合には変更届の提出が必要です。
- 事業所情報の変更(追加・廃止など)
- 加算区分を変更する場合
- 就業規則が変更になった場合
- キャリアパス要件を変更する場合
2019年10月から開始予定の「介護職員等特定処遇改善加算」
2019年度の介護報酬改定で、新たに「介護職員等特定処遇改善加算(以下、特定処遇改善加算)」が2019年10月に開始予定です。
この特定処遇改善加算で何が変わるのか具体的に解説しましょう。
2019年の特定処遇改善加算の特徴とは?
平成31年2月13日に行われた第168回社会保障審議会介護給付費分科会資料によると、「特定処遇改善加算」には次のような特徴があります。
- 介護人材確保のために、経験・技能のある職員にスポットを当てさらなる処遇改善を行う。
- 勤続年数10年以上の介護福祉士については月額平均8万円相当の処遇改善を行う。(そのために公費1000億円程度を投じる)
- 勤続年数が短い職員の処遇改善にも柔軟に対応できる。
これらを確認すると「経験年数10年以上の介護福祉士全てに、月額8万円の給料アップが見込まれる」と捉えてしまいますが、誰もが月額8万円の給料アップにつながるわけではありません。
リーダー級の介護職員が他産業と比べて引けを取らないない賃金水準を実現することを目的としていますが、その他にも次のような内容が決められています。
- ①勤続10年以上の介護福祉士において「月額8万円」の改善又は「役職者を除く全産業平均水準(年収440万円)」を設定・確保
※勤続10年というのはあくまで目安、判断基準は事業所の考え方による - 平均の処遇改善額が、
①勤続10年以上の介護福祉士は、
②他の介護職員の2倍以上とすること
③その他の職種は②他の介護職員の2分の1を上回らないこと
2.では、「月額平均8万円相当」の額について、勤続10年以上の介護福祉士に限らず、他の介護職員やその他の介護職員に配分するなど事業所によってルールを設定するように決められています。
つまり、勤続10年以上の介護福祉士が全ての金額をもらえる場合もあれば、他の職員に分けられてしまう場合もあるのです。
リーダー級の介護職員の賃金アップが目的ですが、事業所によってはもらえる金額を分けられてしまう場合もあるため、単純に「8万円アップ」とは言えません。
特定処遇改善加算が取得できる施設の条件とは?
特定処遇改善加算は、どの事業所も加算の対象になるわけではありません。
新加算の取得要件は次の通りです。
- 現在行われている介護職員処遇改善加算(Ⅰ)から(Ⅲ)まで取得してること
- 介護職員処遇改善加算の職場環境などに関して、さまざまな取り組みを行っていること
- 介護職員処遇改善加算に基づく取り組みについて、ホームページの掲載などを通じた見える化を行っていること
加算を受けられるかどうかは、現行の介護職員処遇改善加算を取得していることが前提で、キャリアパスの導入やその広報など処遇改善に積極的に取り組んでいる事業所が加算の対象になります。
サービス種類ごとの加算率
特定処遇改善加算は、サービス種類ごとに加算率が異なります。
また、サービス提供体制強化加算(最も高い区分)、特定事業所加算(従事者要件のある区分)、日常生活継続支援加算、入居継続支援加算の取得状況に応じて、加算率を2段階に設定しています。
さらに、加算の対象サービスとそうではないサービスがあるため、確認しておきましょう。
訪問看護や訪問リハビリテーションなどは加算の対象外となります。
1.加算の非対象サービス
サービス区分 |
---|
|
2.加算の対象サービスと加算率
サービス区分 | 新加算Ⅰ | 新加算Ⅱ |
---|---|---|
訪問介護 夜間対応型訪問介護 定期巡回・随時対応型訪問介護 |
6.3% | 4.2% |
(介護予防)訪問入浴介護 | 2.1% | 1.5% |
通所介護 地域密着型通所介護 |
1.2% | 1.0% |
(介護予防)通所リハビリテーション | 2.0% | 1.7% |
(介護予防)特定施設入居者生活介護 地域密着型特定施設入居者生活介護 |
1.8% | 1.2% |
(介護予防)認知症対応型通所介護 | 3.1% | 2.3% |
(介護予防)小規模多機能型居宅介護 看護小規模多機能型居宅介護 |
1.5% | 1.2% |
(介護予防)認知症対応型共同生活介護 | 3.1% | 2.3% |
介護老人福祉施設 地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護 (介護予防)短期入所生活介護 |
2.7% | 2.3% |
介護老人保健施設 (介護予防)短期入所療養介護(老健) |
2.1% | 1.7% |
介護療養型医療施設 (介護予防)短期入所療養介護(病院など) |
1.5% | 1.1% |
介護医療院 (介護予防)短期入所療養介護(医療院) |
1.5% | 1.1% |
処遇改善加算の支給対象はどんな職員?
処遇改善加算で支給されたお金は、必ずしもどの職員にも一律に支給されるわけではなく、同じ介護現場で働いていても、支給される職員・支給されない職員がいます。
「パートとして働いているけどもらえるの?」
「無資格だからもらえないのかな?」
「介護施設で働く看護師や栄養士も対象?」
ここでは、処遇改善加算を貰える人ともらえない人の違いを紹介し、そんな疑問を解決します。
支給対象の職員
- デイサービス・入所施設・訪問介護事業所などで直接介護にあたっている職員
- 常勤・非常勤、正規・非正規、パートなど雇用形態は問わない
- 資格の有無は問わない
上記のように、介護事業所で直接利用者の介護にあたっている職員は雇用形態や資格の有無に関わらず支給対象です。
しかしどの職員にいくら支給するかの判断は事業所に任せられているため、事業所によってはパートや無資格の職員には支給しないということもあります。
支給対象外の職員
- 介護職以外の、看護師・栄養士・理学療法士など他の職種に従事している職員
- 直接介護を行わない管理者、ケアマネージャー、サービス提供責任者など
しかし、看護師や栄養士、管理者、サービス提供責任者などが介護を兼務している場合は、支給対象となることもあります。
処遇改善加算で支給される金額はいくら?
遇改善加算で支給される金額は、事業所がどれくらい基準となる要件をみたしているかによって異なります。
ここでは、現行の3区分の要件と、2019年度以降に新たに追加される「介護職員等特定改善加算」について解説します。
処遇改善加算の3区分
処遇改善加算の最大支給額はⅠ、Ⅱ、Ⅲの3段階に分れています。
下記の金額は、職員一人当たりがひと月に受け取れる最大額です。
- 加算Ⅰ 37,000円/月
- 加算Ⅱ 27,000円/月
- 加算Ⅲ 15,000円/月
加算Ⅰ~Ⅲのどの区分に該当するかは、事業所が定められた要件をどれくらい満たしているかによって決まります。
次に、3区分それぞれの要件を紹介します。
加算Ⅰ
3区分のうち最大支給額がもっとも大きい加算Ⅰを取得するには、以下のすべてを満たす必要があります。
- 処遇改善計画が立案・実施され適切に報告されている
- 労働保険基準法違反や未納期間はないか
- 職場環境など賃金以外の処遇改善要件を満たしていること
- キャリアパス要件Ⅰ~Ⅲを満たしていること
厚生労働省の平成28年度介護事業者処遇状況等調査によると、介護事業所全体の70.6%が加算Ⅰを取得しています。
加算Ⅱ
加算Ⅱを取得するためには、以下の条件をすべて満たす必要があります。
- 職場環境など賃金以外の処遇改善要件を満たしていること
- キャリアパス要件Ⅰ、Ⅱのどちらも満たしていること
厚生労働省の平成28年度介護事業者処遇状況等調査によると、介護事業所全体の16.4%が加算Ⅱを取得しています。
加算Ⅲ
加算Ⅲを取得するためには、以下の条件をすべて満たす必要があります。
- 職場環境など賃金以外の処遇改善要件を満たしていること
- キャリアパス要件Ⅰ、Ⅱのどちらかを満たしていること
厚生労働省の平成28年度介護事業者処遇状況等調査によると、介護事業所全体の1.5%が加算Ⅲを取得しています。
キャリアパス要件とは
加算Ⅰ~Ⅲそれぞれの要件にある「キャリアパス要件」とは、資格取得のバックアップや昇給制度の整備など、介護職のキャリアプランを明確にするためのものです。
キャリアパス要件もⅠ~Ⅲの3段階に分かれています。
- 要件Ⅰ:介護職員の役職や職務内容などに応じた適切な配置と、賃金体系の整備ができていること
- 要件Ⅱ:介護職員のキャリアアップのために研修の機会を設けたり、実際に計画、実施ができていること
- 要件Ⅲ:経験年数や資格取得者に応じて平等に昇給する仕組みがあり、一定の基準に基づいて適切に昇給が行えているか判定する仕組みを設けていること
平成30年度の介護報酬改定で加算ⅣとⅤは廃止
処遇改善加算が始まった当初は、5段階の区分がありました。
しかし平成30年度の介護報酬改定により、経過措置期間を設けた上、Ⅳ・Ⅴ区分は廃止となりました。
廃止の理由は以下の3点です。
- そもそも加算Ⅳ・Ⅴに該当する事業所が少ない
- 加算Ⅳ・Ⅴの要件より環境を改善する意識を高めたい
- 加算制度をシンプルにしたい
分配金額は事業所によって異なる
事業所は処遇改善加算で支給されたお金を、全て介護職員に分配しなければなりません。
しかし処遇改善加算を介護職員へどのように分配するかは、各事業所に委ねられています。
勤続年数や資格の有無、雇用形態などによって支給金額に差をつける事業所もあれば、職員の頭数で割って同額を分配している事業所もあります。
また支給方法も、毎月の給与に上乗せする事業所もあれば、年に数回に分けてまとめて支給する事業所もありさまざまです。
引用:厚生労働省「平成29年度介護従事者処遇状況等調査結果の概要」
処遇改善加算を取得しているのに手取りが上がらないのはなぜ?
処遇改善加算を取得した事業所は、すべて介護職員の給与に反映しなければなりません。
それなのに「処遇改善加算を受けているはずなのに手取りがあまり上がらない…」と感じている方はいませんか?
実は処遇改善加算は大変ややこしい制度なのです…!
例えば一人当たりに分配される処遇改善加算が1万円になったとしても、給与明細で1万円増えるわけではないのです。
ここでは、加算を受けているのに手取りがあまり上がらない2つの理由や、事業所が職員に加算分を支払っているかどうかの確認方法をご紹介します。
理由1.昇給分も含めることができる
加算を受けているのに手取りがあまり上がらない理由に、事業所が加算額を年度ごとの昇給分に充てていることが考えられます。
職員の年度における昇給額が2千円で、事業所側は1万円の加算を受けていると仮定しましょう。
事業所側は、年度ごとの昇給額2千円を加算分で補うことができます。ます。
加算を受け取る側の職員は、1万円の加算に定額昇給分も含まれているため、実質8千円しかもらえていないように感じてしまうのです。
理由2.社会保険料も増える
処遇改善加算分も含めた月額の給料が増えると、その分住民税なども含めた社会保険の負担額も上がります。
増額する個人の社会保険料まで事業所が負担することは難しいでしょう。
例えば加算額が1万円である場合では、1万円をそのままの額で受け取ることは難しいということになります。
そのため、手取りとして残る金額は多く感じられないのが現状です。
事業所が職員に加算分を支払っているか確認する方法は?
処遇改善加算は、支給額すべてを給与に充てることが決まっています。
まずは、事業所が職員にきちんと加算分を支払っているかどうか確認することをおすすめします。
毎月の給与明細書の項目に「処遇改善加算」があって、支給額が明確に記載されていれば安心です。
しかし、稀に別途支給されているケースもあります。
「賞与に含まれている」と説明する事業主もいますが、明細書に記載がなければ不適切と考えましょう。
明細書に項目がなく、支給自体がない場合は、違法性が高い場合もあります。
そもそも加算を受けていない場合も考えられるため、きちんと事業主に説明を求めましょう。
処遇改善加算は働きやすい職場を見極める指標!
処遇改善加算は、支給額全額を給与に充てることが義務づけられているため、きちんと受給できれば確実に介護職員の給与アップにつながる制度です。
介護事業所が行っている「介護職員のための処遇改善の取り組み」の度合いで、受け取れる加算額も変わるため、より多くの加算を得るためにキャリアアップの仕組みを整える事業所もあります。。
つまり、「介護職員処遇改善加算」を多くもらえる職場は、介護職にとって働きやすい職場だと判断する材料にもなります。
風通しが良く、キャリアアップの仕組みが整う事業所かどうかは、処遇改善加算の有無で確認してみても良いですね。
2019年10月に新たな加算も始まる予定ですので、今後の動向に期待しましょう。